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苔の栽培方法

001 スギゴケの水田栽培

 2008年5月、スギゴケの種を休耕田に直播きしました。新潟市秋葉区小須戸の水田、およそ1700平方メートル(1.7反)です。スギゴケの種およそ600リットルを、水を張った水田にばら撒きました。
 本来はこの3倍の1700リットル(1平方メートルに1リットル)を播くべきなのですが、試験なので少なくしました。種を播いた直後に、風が吹きました。風でスギゴケの種がほとんど流され、水田の片隅に片寄ってしまいました。
 失敗です。種を播くときは水を落とすべきでした。

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 6月4日、流された種を観察しました。発芽はありませんでしたが、先端部は成長していました。
 その後、10月から11月にかけて、もう一度600リットルの種を播きました。

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 2009年5月、2度目の種蒔きが効いたようです。全面に新株が発生していました。圃場の全景が緑色に見えるのは雑草のせいです。でも、雑草の下から茎高1~2センチの新株がたくさん成長しています。

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 2010年3月、2度目の播きゴケから1年半、スギゴケはたくましく成長しています。まだ未成熟ですがコロニー(群落)もでき始めています。茎高2~3センチほどです。
 水田での播きゴケ栽培はほぼ成功です。この間、放置状態でした。
  By 苔神

002 スギゴケの水田栽培

 2008年5月、スギゴケの種を休耕田に直播きしました。新潟市秋葉区小須戸の水田、およそ1700平方メートル(1.7反)です。この記録を紹介しています。
2010年4月、好天が続いてスギゴケが伸びました。新株(今年の株)もどんどん出ています。茎高7~8センチになっています。2ヶ月ほどで倍以上も伸びています。

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 6月24日、雑草が伸びて来ましたので、草刈りを実施しました。雑草はそのままでもかまわないのですが、隣近所の水田に迷惑をかけるといけないので草刈りです。
 刈った雑草の下からこんもりとしたスギゴケのコロニーが現れて来ました。茎高10センチほどです。

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 2011年3月31日、その後、夏過ぎから雑草が伸び、冬の間、雪に埋もれていましたが、雪解けの後、枯れ草の中を覗いてみると、スギゴケのコロニーはさらに充実していました。古い株の中には新株がたくさん伸びだしています。

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 2008年からおよそ3年間にわたるスギゴケの水田栽培の試験でした。
 苔神はこのスギゴケを刈り取って「苔の種」の材料にしています。試験栽培とはいえ、コケの栽培試験はこんなに時間がかかるのです。根気がないとコケは育てられません。苔神は最初の種蒔きに失敗しましたが、皆さんは2年でこんなスギゴケの畑を育てることができますよ。
  By 苔神

003 水田栽培の記録

 新潟市秋葉区小須戸の水田、およそ1700平方メートル(1.7反)で、スギゴケの種を直播きしました。2008年5月から、ちょうど3年が経過しました。

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 ずいぶん伸びてきました。茎高平均10センチ程度ですが、写真の株は12センチあります。3月末から1~2センチは伸びています。スギゴケは4月~8月にかけて一気に新芽が成長します。
 面白いのは、今年、地面から発生した新株の成長の仕方です。コロニーの茎高が5センチなら新株の茎高も5センチ、コロニーの茎高が12センチなら新株の茎高も12センチまで、葉が発達しないまま伸びることです。

 古い株が密集したコロニーの内部は光りが届きにくいため、葉や葉緑素の発達が遅れるのだと考えます。コロニーの茎高まで一気に成長して光りが届くようになって、初めて葉や葉緑素が発達するのだと考えます。面白い現象ですね。
  By 苔神

004 水田栽培の記録 草刈り

 5月26日、水田圃場の草刈りをしました。新潟は田植えも終わり、初夏の陽射しが暑いくらいになって来ました。圃場の草刈りは去年もやったのですが、2日がかりの大仕事でした。
 今年は、小須戸の園芸農家でうららこすどの組合員、笠原さんから自走式の草刈り機を借りることができました。これはとても楽です。半日で草刈りを終えることができました。
 
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 この草刈り機は刈った草が細かく刻まれてばら撒かれ、雑草の下のスギゴケの上に遮光ネットのように広がります。本当に、これは便利!と痛感しました。
スギゴケは順調に成長しています。
  By 苔神

005 スギゴケの水田栽培

 8月9日、今年2度目の草刈りをしました。今回も笠原さんから自走式の草刈り機を借りて、おかげで1時間半ほどで刈り終えることができました。
 
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 前回は5月26日でしたから、2ヵ月半ぶりです。とにかく雑草の伸びるのが早い。
 苔の種を採取する目的の圃場なので、特に草刈りをする必要はないのですが、周囲の稲作農家から草を刈ってくれと苦情が出るので、仕方なく刈るのです。苔にとっては、適度な雑草は日よけ、風除け、湿度保持の観点から、あった方が良いのです。
 草を刈ると、一緒にスギゴケの頭が切断されてしまいます。切断された株は枯れてしまいますが、切断された部分は播きゴケの種になります。来年の春には新株が発芽してスギゴケは年々増えてゆきます。
 今回はスギゴケの株の写真は載せませんでしたが、前回同様、順調に育っています。
  By 苔神

006 スギゴケの水田栽培

 10月11日、8月に草刈りをしてから2ヶ月が経ちました。ご覧の通り、雑草が繁茂しています。水田は雑草が生えやすい環境なのでしょうか?その雑草の中、スギゴケはしっかりと育っています。
 
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 草刈りをすると、どうしてもスギゴケまで刈ってしまいます。スギゴケは枝分かれせず、先端部がどんどんと伸びて行く性質を持っていますから、先端部が刈り取られると、成長が止まり、徐々に枯れて行きます。
 
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 写真でも、先端部が切断された株と、そうでない株がはっきりと見分けられると思います。茎高10センチほどの2年目の株です。
こうして毎年、草刈りをすると、これ以上に成長する株が増えません。2、3年目の株は10センチ以上になり、草刈り機で先端部が切断されるからです。8月に草刈りをして、10月で枯れていますので、先端部を刈られたスギゴケの株は、1~2ヶ月で枯れると言えます。
 でも、来年の春には新しい株が土中の仮根から発生し、コロニーをさらに充実させることになります。
 造園業者の間で、伸びすぎたスギゴケを刈るという管理方法が行われています。根拠のある管理方法だといえるでしょう。でも、いつ刈るのが最良か、刈った後どう手入れしておくのか、まだ、はっきりとした結論は出ていません。まだまだ、研究の余地があります。

  By 苔神

007 水田栽培の記録

 2008年5月に最初の播種を実施して失敗し、2009年5月に2度目の播種を実施。その後の経過をレポートしています。
 2012年4月、圃場の外周部に、除草剤を散布しました。バスターです。雑草は枯れていますが、スギゴケも茶色に枯れかかっています。手のひらに載った株をご覧ください。薬剤が付着したところだけ、薬剤の影響を受けているのが確認できます。バスターは茎葉で吸収して、茎葉を枯らす薬剤です。根まで枯らす除草剤ではありません。
 
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 5月13日に観察しました。圃場の周囲の雑草が枯れているのが見られます。それ以外は、40センチを超えるほどの背丈に伸びた雑草に、一面覆われています。雑草の中はかなり密度を増したスギゴケのコロニーがびっしりと広がっています。茎高11センチ程です。
 
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 これまでは草刈りをしていたのですが、この日、除草剤を散布してみました。
スギゴケは維管束の働きがないので、茎葉から薬剤を吸収しても根までは枯れないはずです。

 圃場を二分して、一方にはラウンドアップと2-4D、一方にはタッチダウンを散布しました。どちらも茎葉吸収で根まで枯らすタイプの除草剤です。通常は100倍ほどに薄めて散布するのですが、今回は20倍の希釈で、900平方メートルに20リットル散布しました。これだけ強い薬剤を散布しましたので、もし、スギゴケが維管束の働きを持っていれば、仮根まで枯れてしまうはずです。その実証試験を兼ねています。
 2週間もすれば結果が出ると思います。結果が出たら、レポートします。
  By 苔神

008_スギゴケの水田栽培

 5月13日に除草剤を散布しました。
 圃場の半分にラウンドアップと2-4D、もう半分にタッチダウンを散布しました。どちらも茎葉吸収で根まで枯らすタイプの除草剤です。通常は100倍ほどに薄めて散布するのですが、20倍の希釈で、900平方メートルに20リットルずつ散布しました。

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 5月30日の観察です。スギナを含めて、おおよその草は枯れていますが、萱の類はなかなか枯れてくれません。それでも少しは黄色になりかけていますから、薬剤は効いているものと思われます。
 雑草の中のスギゴケのコロニーも観察しました。薄く黄色に変色しているのは、薬剤がかかって枯れ始めているものです。スギゴケの先端部に薬剤がかかって枯れると、株全体が枯れます。先端部の成長細胞が影響を受けなければ、成長を続けます。

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 肉眼では見分けが付きませんが、もう少し時間を置くと、完全に枯れる株と生き続ける株とが見分けられるようになります。また、株が枯れても、来年、新株が発生してコロニーを形成します。毎年、定期的に薬剤を散布し続けることで、雑草は減少して、スギゴケは増え続けます。
 あたかも、除草剤がスギゴケの成長を促進しているかのように思えるのです。
  By 苔神

009_スギゴケの水田栽培

 突然の出来事でした。
 6月10日、島根から苔を学ぶために訪問中の二村会員を案内して、スギゴケの水田栽培の試験圃場を訪ねて見ると、スギゴケ圃場が消滅していました。
 一瞬、何が起こったのかと、呆然としてしまいましたが、誰かが、トラクターを水田に入れて耕耘したことは、一目瞭然。でも、一体誰が?

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 誰でもありません。地主のH氏の仕業に違いありません。雑草が生え始めると、勝手に薬剤を播く人です。苔神が、水田でスギゴケ栽培の試験を続けていることは知っていますが、それがどういう意味を持っているかなど、頓着しないのです。
 後で連絡してみると、雑草がみっともないからトラクターを入れた、という。泣くに泣けない気持ちです。どんなに試験栽培の話をしても、通じません。本来なら、借地契約をしているのだから、損害賠償を請求してもおかしくないくらいなのですが、そこまですることはできません。
 仕方なく、泣いて、我慢です。

 というわけで、スギゴケの水田栽培の試験は、これで終了となります。除草剤散布の長期的な効果や、この圃場から採取される種ゴケの単位当たり収量や、コロニーの株密度の調査など、全てがご和算になってしまいました。
 でも、最初の失敗を除けば、4年間の水田での試験は、90パーセントくらいは成功しています。
 また、スギゴケごと耕耘された水田に、来年、スギゴケが生えて来るのかどうか、それも一つの試験だと、考える他ありません。
 というわけで、9回にわたる「スギゴケの水田栽培」の試験記録レポートは、今回で終了します。
  By 苔神