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苔の研究レポート

004 ウマスギゴケです!

ウマスギゴケです!

ウマスギゴケを観察しました。あれこれ報告します。

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典型的なウマスギゴケ (Polytrichum commune )です。
2007年6月13日 新発田市上板山地内で採取しました。立派なコロニーです。もっとも長い株で全長28センチあります。よく見ると、新株(今年伸び出した株)と旧株(2~4年目の株)と枯死株が混じっています。
ウマスギゴケに限らず、ほとんどのコケが何故か寄り集まって密集し、コロニーを形成します。旺盛なスギゴケのコロニーを調査して気がつくのは、必ずといってよいほど、新株、旧株、枯死株が混在していることです。つまり、スギゴケのコロニーの中で新しく発芽して伸び出した新株と、それ以前から成長している旧株と、何らかの原因で死んだ株が、年々、順番に、入れ替わるように世代交代をしているのです。
図鑑によると、オオスギゴケ、ウマスギゴケは枝分かれしないと解説されています。つまり、一個の芽が成長して一本の茎葉体になり、死ぬまで成長し続けるというのです。もし、最初に発生したスギゴケの株がそのまま成長するだけで、新しい株が生まれてこなかったら、どうなるでしょう。古い株が少しずつ死んでゆくでしょうから、コロニーは間違いなく衰退してゆくことになります。
ウマスギゴケが何年生きるか分かりませんが、一年で10センチ伸びたとして、3年で30センチとなる計算です。コロニーは狭い空間にたくさんの株がお互いに支え合うように林立しています。コロニーの株数が少なくて隙間ができるような状態だったら、簡単に倒れてしまうことになります。
つまり、スギゴケのコロニーは自ら衰退しないように、倒れないように、毎年、新しい株が発生して来るシステム構造になっているのです。株が密集してコロニーを形成することによって、コロニー内部を乾燥から守り、新しい株の発芽を促進し、さらに株数を増やしてコロニーを充実させてゆくのです。驚嘆すべき生態ではありませんか。
スギゴケのコロニーが倒れてしまう現象をよく見ます。特に庭園に植えてあるスギゴケに多く見られます。庭屋さんがもっとも恐れる現象です。スギゴケが倒れる要因の一つに、新株の発生が少ないということが言えます。何故、新株の発生が少ないのか、その理由は分かりませんが、新株の発生が少ないためにコロニーが衰退し始めて、スギゴケが倒れてしまうのではないかと考えます。
もう一つ、コロニーを観察して気がついたことがあります。新株と旧株の写真を見てください。左側の細い株が新株です。異様に長い茎の先に葉が広がっています。茎の全長は23センチもあります。これは、新しい芽が土壌から発生し、株が密集して暗いコロニーの中を、上部へ上部へと伸びて行き、ようやく光が得られる地点へ伸びだして、葉を広げることができた、ということなのです。これは様々な示唆に富んでいます。つまり、光が届かない場所でもスギゴケは発芽するということを意味します。また、発芽した株は、光が届かない場所では茎が伸びるだけで、葉は分化、成長しない、ということを意味します。
自然を観察するだけで、さまざまなことが見えてきます。
  By 苔神