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苔の研究レポート

007 苔の質問と応答

 苔神に寄せられる国外からの問い合わせは、アメリカ、フランス、中国、韓国など様々な国からあります。専門的な栽培技術や初歩的な苔の名前の問い合わせなど、本当に多種多様です。
 平成14年2月に、ドイツからメールが届きました。

■問合せ: 14/2/20
日本苔技術協会 事務局 様
こんにちは、はじめまして。 苔玉に興味がありインターネットでこちらのサイトを知り、ご連絡いたしました。
私は未だ苔玉作りは未経験ですが、いつからか苔にはなんとなく興味を持つようになりました。ホームページには簡単な材料で作れる手引きも載っていて感激しました。
近々ぜひ自作したいと思っています! 
ホームページの中で質問の回答文の中に、「今後、コケは様々な形で需要が増えて来ます。今、コケを学んでおけば、将来、大きな事業に取り組むことが出来ますよ。」という文章を拝見いたしました。 
この上記でおっしゃられている苔の様々な形での需要について簡単に教えては頂けませんでしょうか? 
私は現在ドイツに住んでいるのですが、お花やさんは数あれど、コケ玉はまだ拝見したことがありません。(それほど見て回っているわけではありませんが) 
もし自分でコケ玉を作り育てることができたら、それを知らない人に見せてあげたいし紹介してあげたいと思っています。(ドイツは湿気が少ないのでどうなるかは分かりませんが。)
どうぞよろしくお願いいたします。
南 敦子

■応答:14/2/20
南 敦子 様
日本苔技術協会の北川義一です。
メールを受信しました。
苔神のサイトをお読みいただいて、有難うございます。
ドイツに在住とのこと、どんなところなのかな?と、想像をめぐらしています。
こけ玉は、日本人独特の繊細な自然観が培ってきた表現様式の一つです。
コケ=蘚苔類植物は、庭園やガーデニングでは、目立たない脇役の存在です。
コケは世界中、どこにでも生息しています。
もちろんドイツにもたくさんあるはずです。
でも、地味な植物で、ほとんど、誰の目にも「ただのコケ」としか映らず、見過ごされています。
そのせいでしょうか、コケ=蘚苔類植物は、学術的にも研究が進んでおらず、育て方も、増やし方もまだよく知られていない、そんな植物です。
そのコケが、近年になって、実は、非常に特異な生態を有していて、長期間の乾燥状態にも耐えて、生き続けることが分かってきました。
このコケの生態が、地球の温暖化、co2の固定、気象変動などの大きな問題と共にクローズアップされつつあります。
例えば、ビルの屋上のような環境下でも育つ可能性があり、それを利用してビルの屋上や壁面を緑化できれば、ヒートアイランド現象を防ぐ効果が期待できます。
また、極寒の南極でも生息が可能、乾燥状態に遭っても生息が可能という能力を利用すれば、砂漠の緑化も可能ではないか、とコケに対する期待が膨らんでいます。
夢のような話は別としても、コケに寄せる日本人の独特の自然観や、その自然と共生している文化観が、こけ玉に象徴されていると思います。
オリンピック招致で「お、も、て、な、し」が注目されたように、今、日本人の持つ感性が、世界的に注目されています。
イングランドのチェルシーのガーデニングコンテストでは、数年前から日本庭園「苔庭」が注目され、受賞しています。
同じ流れですが、欧米諸国では、「盆栽」に注目が集まっています。
この、盆栽の鉢にコケを育てたいという問い合わせが、諸外国から苔神に寄せられています。
諸外国にはコケを扱う歴史がなかったようで、コケを栽培する、育てる技術がありません。
その諸外国からの技術を求める対象となったのが、簡単そうで、見栄えのするこけ玉だったようです。
コケ=蘚苔類植物には、近未来の地球の危機を救うかもしれない可能性と、人類の自然観や世界観に対する哲学的な精神性に対する魅力があると考えます。
少し、饒舌になってしまいましたが、確かに、コケには不思議な魅力があります。
でも、コケの魅力は語るよりも、実際に手にしてみるのが一番です。
Adrien Benard というフランス人がこけ玉で活躍しています。
一昨年、来日して、コケの栽培技術やこけ玉を勉強したいと、日本苔技術協会に参加しました。
今年、パリに、こけ玉の専門店をオープンすると聞いています。
http://www.aquaphytedesign.com/ サイトを参照してみて下さい。
世界の各地へこけ玉は広がって行くはずです。
南さんが、ドイツの人々にこけ玉を作って見せてあげれば、きっと、驚きと感嘆の視線で注目され、日本の精神文化と、コケの技術について、多くの質問を受けることになるだろうと、想像します。
私は、十数年前にコケの世界へ一歩を踏み出しました。
これからでも遅くはありません、どうぞ、南さんも、一歩を踏み出して下さい。
コケの世界へ、ようこそ!
苔神工房 北川義一

■問合せ:14/2/20
北川 様
早速返信いただきましてありがとうございます。
苔の可能性やその性質は凄いですね!南極でも生息可能というのも驚きでした。
これから日本の精神文化も含め、勉強していきたいです! 
ドイツの首都ベルリンに私は住んでいます。ベルリンには盆栽専門店がひとつあると知り、早速出向いてみようと思っています。きっと苔も扱っているような気がします。
又、ベルリン市内には緑豊かな公園が多々存在し、苔も元気に生息しているのを出向く度に見ています♪
Adrien Benardさんのホームページで扱っている商品もステキでした。 私も夢が広がります! 
度重なる質問になりますが、勉強するためにお勧めの書籍はありますか? 
一つ購入し、熟読しようと思います。 
 
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早速、初めてのコケ玉作りをし、無事完成いたしましたのでご報告いたします! 
もともと家にあった観葉植物を使用し、苔は公園で採取してまいりました。
布とゼリーか何かの空き容器を切り抜きパイプ代わりに使用。
苔の種類はハイゴケかギンゴケでしょうか? 公園の土の上に雑草と混じってありました。 
人生初めてのコケ玉作り楽しかったです!&完成し、とても嬉しいです!! 
南 敦子

■応答:14/2/21
南敦子 様
こけ玉の写真見ました。
初めてにしては、よく出来ていると思います。
ホームページの作り方をちゃんと、見ていますね。
ホームページにはさらに新しくて、もっと詳しい作り方がアップされています。
技術レポートがPDFファイルになっているので、添付して送りましょう。
こけ玉は、作ることは易しいのですが、育てることが難しいのです。
そこで、易しく育てられる作り方を工夫します。
今の所、最もやさしく作れて、やさしく育てられるのが、布こけ玉です。
コケを勉強するために役立つ書籍に、適当なものはありません。
もし、本気で学ぶつもりなら、図鑑を購入して、毎日、眺めて読んで下さい。
何が書いてあるか分からないかも知れませんが、とにかく、毎日、少しずつ、目を通します。
どうしても気になることがあったら、植物の専門家を訪ねて、質問すると良いでしょう。
平凡社から発行されている「日本の野生植物 コケ」岩月善之助編、をお勧めします。
コケを学ぶ最善の方法は、自然のコケを観察し、手で触れ、育ててみることです。
ファーブルやダーウィンがたどった道です。
幸い、ベルリンには色んなコケがあるようです。
20倍ほどのルーペを購入して、覗き込んで観察して下さい。
写真を撮って、記録を残して下さい。
日付、場所を記録して、いろんな角度から撮影して下さい。
できるだけ、精密な画像で記録して下さい。(拡大して観察します)
撮影した画像を送ってくれれば、色んなことを教えてあげることが出来ます。
ちなみに、初めて作った敦子さんのこけ玉は、ハイゴケではなく、ハネヒツジゴケ(Brachythecium plumosum hedw.)、あるいは、アオギヌゴケ(Brachythecium populeum hedw.)のようです。
ハイゴケに似ていて、よく間違えられますが、でも、ハイゴケの名前や特徴を知っているなんて、結構、コケ通ですね。
こけ玉を通じて、ドイツの人と交流して下さい。
日本的な精神文化観を多くの人に伝えて下さい。
応援します。
苔神工房 北川義一