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苔の研究レポート

028 ウマスギゴケを育てる

 ウマスギゴケは一年で3~5センチほど成長し、移植から3年ほど経つと株高が15㎝ほどにもなり、倒伏現象を起こすようになります。ウマスギゴケの茎葉体が倒伏すると、コロニーが崩壊して過乾燥を招き、枯死に至ります。これはウマスギゴケの生態ともいえる現象です。
 
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 2020年8月 新潟市江南区 松島邸の倒伏枯死現象
 
 この倒伏枯死現象を防止する技術は、今のところ、茎高管理しかありません。数年に一度、コロニーの刈り込みを行い、茎高を5センチほどに管理することです。ただし、コロニーを刈り込むと、その茎葉体は枯死しますので、刈り込みの条件を理解して実施しなければなりません。刈り込みの条件は幾つかありますが、重要なのは、ウマスギゴケのコロニーの仮根が、基盤土中にしっかりと繁殖していることです。
 ウマスギゴケの仮根が繁殖しているかどうか、これを見極めるのはかなり難しい技術です。少なくとも、種を播種して発芽を促し、その後、茎葉体の成長と共に仮根が生育して十分に繁殖するようになるまで、最低2年ほどかかります。ウマスギゴケのコロニーの一部を基盤土ごと採取して、丁寧に水洗いしてやることで、仮根の成長具合を観察することができますが、簡単な作業ではありません。
 ウマスギゴケは、毎年、仮根部から新芽を発生するという生態を持っています。この仮根の繁殖は、新芽の発生株数に比例しています。苔神のこれまでの観察から、新芽の発生株数が、単位面積(10×10㎝)あたり200株~300株/年ほどになると、仮根が十分に繁殖していると判断することができます。
 
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 左:ウマスギゴケの仮根束を観察       右:仮根から新芽の発生を観察
 
 ウマスギゴケの仮根が十分に繫殖していれば、倒伏を防止するために伸びた茎葉体を刈り込んだ後、新たな新株が発生し、コロニーを復元してくれます。これが茎高管理で刈り込みを行う時の重要な条件なのです。ウマスギゴケの刈り込みとコロニーの再生については、№026「ウマスギゴケの倒伏枯死防止法」でも取り上げました。
 
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 左:2020年3月 刈り込み前      右:刈り込み後
 
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 左:2020年5月23日         右:2020年7月26日 コロニー再生
 
 庭園の基盤土中に仮根を十分に繁殖させることは、ウマスギゴケの育成にとっては欠くことのできない重要な生態なのですが、人工的に作られた庭園では、ウマスギゴケの仮根はほとんど育てられていません。何故なのでしょうか?その理由の一番に挙げられるのは、ウマスギゴケの仮根が何なのか、ほとんどの人が知らないことです。
 ウマスギゴケを庭園に移植する造園家の仕事を見ていると、まず、仮根が切除された苗を使用しています。本来、仮根を庭園に移植して、そこから発生する新芽を育てることで、ウマスギゴケのコロニーを育成し、さらに、庭園の基盤土中に仮根層を育成しなければならないのに、仮根が切除された苗を移植するとは、まるで切り花を庭に植えこんでやるような仕事していることになります。切り花と言っても、ウマスギゴケの茎葉体はそのまま数年間は育ちますので、それくらい持てば、造園家の仕事は十分であると考える方もいるようですが、これでは庭園のウマスギゴケを育てたことにはならないのです。
                               by 苔神