001 スギゴケが枯れました。
「庭のコケが枯れてしまったんです。どうすれば、スギゴケを育てることができるのでしょうか」
こんな電話を頂いたのは、2006年の6月でした。コケに興味を抱き、あれこれとコケをいじり始めて2年目の頃です。
その頃、ハイゴケを使って、苔玉を盛んに作っていました。結構上手に作り、育てることができました。当時は苔玉が人気で、結構売れてもいました。苔神は「コケを育てるなんて、そんなに難しくない」と思っていました。
「何とか相談に乗ってくれませんか」と請われて、その気になり、富山市まで行くことになりました。
コケについての基礎知識は知っていました。もちろん、コケは播きゴケ法で増やすことができることも、移植法によって育てることができることも知っていました。後は、湿度や温度、日照に注意すればコケは自然に育つもの。多少の乾燥にあっても丈夫な植物。まあ、現場を見れば何かアドバイスできることがあるだろうと軽く考えていたのでした。
富山市内のUさん宅を訪ねて、話を聞きました。4年以上も前から、庭屋さんが毎年、スギゴケの苗を移植しては枯らし、移植しては枯らしを続けているのです。とうとう、庭屋さんがお手上げになったらしく「ここはコケが合わない場所」と言われ、それでもあきらめきれず、Uさんは自分でコケを育てる気になったのです。
現場は南向きの庭。ブロック塀に囲われていて、環境的には悪くなさそうに見えます。スギゴケはあわれなほど衰えて、ほとんど枯れ果てています。スギゴケの苗は「株分け法」で移植したようです。基盤の土壌はいわゆる山砂です。水は最低でも一日一回はシャワーでやっているとのこと。
「水道水が悪いのでしょうか?」「土が合わないのでしょうか?」「日当たりがよすぎるのでしょうか?」「水はけが良すぎる、それとも悪い?」「屋根のひさしの金属がコケに悪いと聞きましたがそのせいでしょうか?」「コケの苗が悪かった?」「庭屋さんの植え方が悪い?」「屋根から落ちる雪のせい?」
次から次へと出るUさんの質問に、苔神は「???」返答に窮してしまいました。
結局、ほとんど役に立つアドバイスもできず、コケの苗と播きゴケ用のコケを後で送る約束をしてすごすごと新潟へ帰って来ました。帰途の車の中、苔神はスギゴケについて何も知らないことにしみじみ落ち込んでいました。
苔神が本気でスギゴケの研究に取り組み始めたのはその時からでした。 by 苔神