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苔の研究レポート

001_苔の庭_村上市

 5月1日から31日まで、村上市で第8回「城下町村上 春の庭百景めぐり」というイベントが開催されました。20日、苔神は早速、村上へ行って来ました。
 村上市は古い城下町の街並みが残る地域で、民家などの庭園は古い中庭や坪庭が見られます。普段は自由に見ることができない庭のコケをたくさん見てきました。庭園の苔ですから、サンプルを採取することはできません。カメラで接写して画像を記録し、コケの種類は属名のみですが記載しました。
 
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 千年鮭「きっかわ」の中庭 Dicranum
 
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 「富士見園茶舗」の中庭 Atrichum
 
 市内の寺院の庭も解放されていて、何ヵ所かを見て回りました。さすがに寺院の庭は広く、コケの種類もたくさん見つかりました。ほぼ自生しており普段、コケの手入れなどはしていないとのことです。
 
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 曹洞宗 万年山「長楽寺」 Polytrichum
 
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 曹洞宗 體真山「満福寺」 Polytrichum
 
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 曹洞宗 大葉山「普済寺」 Leucobryum
 
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 Dicranum                       Hyophila
 
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 Atrichum                        Pogonatum
 
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 Sphagnum                       Canpylopus
 
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 Polytrichum
 
 庭園のコケは普通は自生しており、手入れなどは必要がないのですが、スギゴケ(Polytrichum)の種類は手入れが必要です。生態学的に先端成長を続けて茎高が15センチ以上に伸び、やがて倒伏を起こします。上の画像のように、普済寺のウマスギゴケも倒伏枯死現象を起こしていました。苔神の見立てでは、これは自生種ではなく、移植されたものではないかと考えています。移植されたウマスギゴケによくみられる現象だからです。
 一日かけて見て回ったコケの庭、全てを見て回ることはできませんでしたが、ついつい時間を忘れてしまいました。   by 苔神

002 苔の庭_胎内市

 10月17日、胎内市の「荒惣」さんの庭園のコケを下見に行って来ました。
 板塀を背景にした和庭園です。石や灯篭、樹木などが配された庭園内には、シッポゴケ属(Dicranum)、シモフリゴケ属(Racomitrium)、タチゴケ属(Atrichum)、ハイゴケ属(Hypnum)など、およそ10種類ほどの蘚苔類が繁殖しています。でも、大部分に土が露出しており、自生しているコケはほんのわずか。この庭に全体的にコケを移植してきれいにしたいとのことでした。
 
 移植前の庭園

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 11月15日、コケの移植に行って来ました。
 協会員の朽網裕子氏、坂井苔栽培組合の坂上会長を含めて4名に、コケの移植指導を兼ねて、午前9時~午後3時半まで、作業を行いました。使用した苗は、坂井地区で栽培されたウマスギゴケ、シッポゴケ、カモジゴケ、オオシッポゴケ、トヤマシノブゴケ、エゾスナゴケ、ツボゴケ、アラハシラガゴケの9種類。
 
 移殖

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 コケの移植で難しいのはウマスギゴケです。和庭園で使用されるコケの大部分がウマスギゴケなのですが、ウマスギゴケの移植技術は専門の造園業者でも知る人は少ないのです。
荒惣さんは創業200年を迎える老舗で、蔵作りの伝統的な屋敷を保存しています。誰でも街歩きで見学できると聞きました。是非、見に行って下さい。         by 苔神
 
 問合せ先:株式会社 荒惣 ℡:0254-43-2007 https://www.araso.co.jp


003 苔の庭 バンクーバー

 カナダのバンクーバーのアルバーニーストリートに、建築デザイナーの隈研吾氏の設計による42階の高層ビルが建設され、そのエントランススペース約350平方メートルに苔庭園が設置されました。
 この苔庭園は、頓宮保会員(カナダ在住)によって、2015年の試験施工から始まり、2023年までの8年間をかけて、苔の栽培から移植、完成まで実施されました。その苔庭園の制作の事業について、頓宮会員が解説の動画資料を作成し、YouTubeにアップしました。苔の栽培・移植に関しては、世界初と言える技術が公開されています。
 
 https://www.youtube.com/watch?v=obub1Y5qhek&t=30s
 
 アルバーニーのビルと苔施工の現場
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 苔苗の現地生産を担ったNATS nurseryの圃場
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 現場に使用する苔の苗の生産を担ったのは、NATS nurseryのMr. Ron Jacobson会員です。彼は2018年に来日して、苔神の研修を受講して行きました。帰国してほぼ4年間、頓宮会員と相談しながら、試験栽培を繰り返し、立派な苔苗をカナダで生産することに成功し、現場での苔庭園の完成に貢献しました。
 多くの方に、この現場の解説動画を見て頂きたいと思います。
                                  by 苔神

004_苔の庭 高柳町岡野町

 柏崎市高柳町岡野町の貞観園を訪れ、庭園の苔を見て来ました。
 この苔庭園は、天明4年(1784年)に貞観堂が建築された頃から作庭され始め、江戸末期から明治の初期に基礎が出来上がったと伝えられていて、それ以降、自然に繁殖する苔によって現在の景観が形成されたと言われています。この貞観園を管理している公益財団法人貞観園保存会の事務局長の今井さんに聞いてみると、庭園の苔に関して、人工的な植栽などはしておらず、週に3回、落ち葉拾いと雑草除去をしているだけとのこと。
 現地を訪れてまず感じたのは、この地域には自生する苔が豊富にあることです。参道の階段から貞観園の入口、庭園内のあらゆるところに、様々な苔が自生しているのを見て、本当に自然のままに苔が繁殖していることを実感しました。
 
 貞観園の参道と入口前
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 庭園内の風景
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 昭和12年に、貞観園は国の名勝庭園に指定されており、園内を歩き回ることが出来ないため、隅々の苔を観察することはできませんでしたが、手近な苔を見るだけでも、相当な種類の苔を観察することができました。
 幾つかの苔を紹介しますが、サンプルを採取することができないため、種の名称は断定的なものではありません。現地での観察と、画像による判断で種名を記載しています。種名まで分からないものは属名で表記しました。

 コスギゴケ Pogonatum inflexum   ナミガタタチゴケ Atrichum undulatum
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 ヤマトフデゴケ Campylopus japonicus  ヒメホウオウゴケ Fissidens gymnogynus
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 ウマスギゴケ Polytrichum commune  ハイゴケ Hypnum plumaeforme
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 アラハシラガゴケ Leucobryum bowringii ホソバオキナゴケ Leucobryum juniperoideum
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 シノブゴケ属 Thuidium  ツボゴケ Plagiomnium acutum
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 上記以外にも、たくさんの種類の苔が自生していたことは、言わずもがなというところです。何回か訪れて詳しく調査・観察したい思いは強いのですが、新潟からは遠いので、次回訪れるのが何時になるのか、今のところ分かりません。   by 苔神